プロダクトマネージャーという仕事について

現在、全世界的にプロダクトマネージャーという職種に対する注目が高まっていますが、従来的なディレクターやPMと違うレベルの、本当の意味での「プロダクトマネージャー」というのは少ないのではないでしょうか。

プロダクトマネージャーは、言ってみれば映画監督が映画に責任を持つように、小説家が小説に責任を持つようにプロダクトに責任を持つ存在です。そのプロダクトにクレジットを与えるとしたら、一番最初 or 最後に名前が載るのがプロダクトマネージャーなのです。

プロダクトマネージャーに必要な資質とは?

プロダクトマネージャーは他の人に対して、自信を持ってプロダクトの理想像を語り、そのプロダクトに起こる様々な問題をすべて自分の責任において引き受ける必要がある。

私はそのような意味から、いちばん重要なプロダクトマネージャーの資質は「自信」ではないか、と思っています。

この場合の「自信」にカッコがついているのは、単に自分に自信があるということではなくて、自信があるということが周囲のエンジニアやデザイナー(あるいは顧客、取引先)にきちんと伝わって、「この人の方針を信じて進めば良い」と納得していただかなければならないからです。

「僕は自分に自信があります」と口で言うのはかんたんですが、態度や雰囲気はかんたんには誤魔化せません。自信がなさそうな人の態度は案外、他人にばれやすく、ちょっとした仕草や言葉の端々に現れてしまいます。

ですから、生得的に自信過剰な人で、何の訓練もなく良いプロダクトマネージャー(や映画監督や小説家)になれる可能性はわずかにはあると思いますが、周囲との関係性まで考慮に入れれば、それが機能する確率はさらに何百分の1になり、そのごくごくわずかな可能性に賭けて「天性のプロマネ」を雇う経営者はなかなかおりません(少なくとも私はビジネスにおいてその種の賭けはしません)。

プロダクトマネージャーになるには

では、仮にいま、プロダクトマネージャーとしてのキャリアを思い描いている人がいたとしたら、何をすればよいでしょうか。

ことITの世界においては、一番かんたんなのは、自分でコードを書いてプロダクトを作り、運営することです。そうすれば、誰でもプロダクトマネージャーの立場に身を置くことができ、様々な学びの機会を得られるからです。

この場合、一人で全部作りきり、運営からサポート、クレーム対応まで全部やることが貴重な経験になります。このような経験を粘り強く続ければ、プロダクトの全体像が理解でき、様々なトラブルへの耐性もつき、また人に語れる経験を持つことで、「自信」が周囲にも伝わるようになります。

その意味では、大企業やレイターステージのスタートアップなど規模が大きく組織的な開発を志向する組織では、一人で何から何までやらなければならない、という境遇に身をおける人が限られているので、プロダクトマネージャーを目指す方にとっては物足りないケースもあろうかと思います。

最近では、チームワークを重視し、エンジニアにとって働きやすい職場であろうと努力している経営者が多く、それ自体は本当に素晴らしいことですが、ことプロダクトマネージャーを育てるという目線に立つと、分業や体制整備が行き過ぎていると思うこともあります。

「1万時間の法則」から考える

ある領域でトッププロのレベルになるには、だいたい1万時間程度の訓練が必要と言われます。プロダクトマネージャーとして頭角を現す人も、概ねこの1万時間の訓練を積んでいる人ということになります。

たとえば、一人でそこそこの規模のコミュニティサービスを運営していると、単にコードを書いたり、インフラを整備したりといったことだけでなく、人間関係のトラブル含め、休みも深夜も関係なくいろんな問題が起き続けますので、365日、毎日14〜15時間くらいはプロダクト運営に関与せざるを得ない、ということが起きます。これを1年続けると、プロダクトマネージャーとして5300時間ほど費やしていることになります。

ですから、一人でプロダクトを作り、そこそこの規模まで成長させた状態で2年続ければ、プロダクトマネージャーとして一流と呼べるポジションまで成長できる可能性があります。

スポーツや音楽などは、体力や物理的な場所などの兼ね合いで、毎日14時間も練習できません。しかも、活躍時期が10〜20代と若い。しかもこの年代の人は学校に行く必要もあるので、とにかく練習時間が取れません。
そうなると、これらの領域でプロになるレベルを目指すには、3歳とか5歳とか、かなり幼いときからみっちりやらなければ「1万時間を突破しプロになる」こと自体が不可能なのです。

成長スピードの差が生まれる要因

一方、ITプロダクトにおけるプロダクトマネージャーであれば、コンピューター1つあればできますし、体力や場所、年齢などの制約は少ない。プロダクトマネージャー業界は、スポーツや音楽ほど参加者が多くないこともあって、現実的に2〜3年でトップレベルに上り詰めることは可能です。

しかしながら、会社員など、1日8時間の労働で、土日は休んでいる人がプロダクトマネージャーとして腕を上げる場合、年間の稼働日数は240日、1日のうち、メールや経費精算、会議などの時間を省いて6時間程度しかプロダクトの仕事ができないとすると、年間1440時間程度しか費やせません。これだと、プロダクトマネージャーとして一流になるためには7年以上かかる計算です。

大企業ですと、これに加えて、人事査定だとか様々な雑務が入ってくるので、プロダクトに費やせる時間はさらに減って、年間1000時間もないと思います。

こうなると、10年くらい続けてようやく一流、というレベルですが、その10年のうちに、人事異動でまったく別の仕事をやることだってありそうですし、道を極める前に「俺は人事をやりたいな」とか、「経営者を目指そう」といった風に目移りをして、本人が1万時間の取り組みを途中でやめてしまうことも多々あると思います。

プロダクトマネージャーは組織的に養成できるか?

ここが、難しいところです。結局、私は本人にある種の職人的な意志がない場合に、職業的プロダクトマネージャーを企業が1から養成することは一般的に不可能であると思っています。毎日14時間、プロダクトのことをやれ、などと命令できるはずはないし、従業員である以上、休日や深夜は必ず休んでもらう必要がある。

通常、映画監督や小説家には、法定休日などというものはない。小説家でもある私が言うのだから間違いないのですが、小説家というのは人生そのもので商売しています。プロの作家のなかに何時間働いて賃金いくら、と考える人はいません。そしてプロダクトマネージャーという仕事の本質には、まさにそのプロダクトマネージャーの「人生そのもの」が製品になる作家的側面がある。

世の中に、映画や小説のスクールはたくさんあります。しかし、かなり好意的に見積もっても、映画監督や小説家を組織的に養成するという試みは、せいぜい100人に1人くらいの割合でしか、第一線で活躍する人材を輩出できていません。

成長スピードを早めるために企業ができること

そう考えていくと、プロダクトマネージャーの育成に企業が力を貸せるポイントとしては、既に数千時間程度のプロダクト運営の蓄積があり、プロダクトマネージャーとしてのキャリアを明確に描いている意志ある人に対して、プロダクトに集中できる環境を用意してあげて、その成長を加速させることであろうと思います。

たとえば、これまで数年のキャリアで4,000〜5,000時間のプロダクト運営経験がある人に対し、余計な雑務を可能な限り廃して1日9〜10時間、プロダクトに集中できる環境を用意すれば、他のプロダクトマネージャー候補より1.5倍程度の時間を投入できるので、追加の2〜3年で1万時間の壁を突破させられます。

ただし、スタートアップの場合、2〜3年もあれば状況によってはEXITを果たしてしまうくらい急速に成長することがあり、そうなると、2〜3年かけてトッププロになる、というスピード感では足りない側面があります。そうすると、業務外でもプロダクトづくりに関する学習ができる枠組み(副業の個人プロジェクト、ケーススタディ、技術的な試行錯誤など)を用意して、そのための学習コストの一部を企業側が負担するなどして、成長が加速して双方にメリットがある形を模索する必要があるかも知れません。

上記のような取り組みを通じて素早く成長することにフォーカスしてもらえるなら、一定の経験と素養がある人が1年かからずに第一線で活躍するプロダクトマネージャーに成長する可能性は、五分五分くらいまでは行けるのではないでしょうか。20代でこのレベルまで育った人は、全世界的にみても希少ですし、その後、長きにわたって活躍が期待できます。

結局は当人の意志と意欲次第か

もちろん、現実的に、そのような育成を実施するには、プロダクトマネージャー候補の方のかなり強い意志が必要であって、「そこまでやれないよ」という方もいると思います。それはそれで、否定されるような考えではなく、要するに人生は人それぞれだということです。

企業の視点からみれば、プロダクトマネージャーのポジションについては、1万時間の壁を突破した外部人材に、しっかりと報酬を支払って参画してもらうことが第一の選択肢となります。実際、Googleなどでは、プロダクトマネージャーと呼ばれる職種は、もっとも報酬の高いポジションの1つです。

ただ、そのような人材は非常に希少です。映画を作る際に、有名な映画監督をそうかんたんに起用できないのと同じで、採用が上手くいくかどうかは企業次第、状況次第で、一般的にはかなり難しいと思います。

そんなとき、プロダクトマネージャーとしてのキャリアを志向する、意欲ある若手がいるのであれば、そうした方に十分な成長の機会を提供するという視点で人事を再考してみるのも興味深いと感じます。